第36回日本ロボット学会学術講演会

特別講演

ロボット・AIと法 ―リスクの分配に重点を置いて

講師
筑波大学大学院ビジネス科学研究科
教授 弥永真生 氏

弥永真生先生は、話題の書「ロボット・AIと法」(有斐閣)の編著者で、ロボット製造業者の製造物責任やロボット手術と法的責任などの専門家です。 特に、ロボットを製造している企業やロボットシステムの組み立て販売をしている企業の方、医療用ロボットの研究開発をしている方など、ご興味を持っていただけると思います。 皆様のご参加をお待ちしております。

日時
9月6日(木)16:30-17:30

会場
中部大学春日井キャンパス 三浦幸平メモリアルホール

講師略歴
1984年3月 明治大学政治経済学部経済学科卒業
1986年3月 東京大学法学部卒業
1992年1月~2002年2月 筑波大学社会科学系助教授
2002年2月 ~現在 筑波大学 ビジネス科学研究科(2011年10月よりビジネスサイエンス系) 教授

1998年 日本公認会計士協会学術賞
2000年 大隅健一郎賞
2014年 全国銀行学術研究興財団 財団賞
2016年 日本内部監査協会 青木賞
2016年 日本ディスクロージャー研究学会 学会賞(著書の部)

特別講演抄録
 産業用ロボットあるいは搾乳ロボットまたは掃除用ロボットなどに代表される、ある程度自律的に連続またはランダムな自動作業を行う機械としてのロボットのみならず、近年では、移動機能を持ち、自ら外部情報を取得し、自己の行動を決定する機能を有する機械、またはコミュニケーション機能を持ち、自ら外部情報を取得し、自己の行動を決定し行動する機能を有する機械としてのロボットが想定されるようになっている 。このようなロボットにはAIが組み込まれており、法的な観点からは、AIが有する問題を共有することになる。
 ロボット・AIの発展・普及は、社会、人間の生活の質を向上させ、便利にしてくれると期待される。他方、ロボット・AIが適切に作動しなかったことによって、ある個人または社会に対して、損害を与える可能性がある。
 それでは、ロボット・AIの発展・普及に対して、法はどのような役割を果たすことができるのか。
 一般論として、法にはどのような機能があるといわれてきたかをみると、まず、違反した場合にたとえば罰を与えるという形で、一定の義務を課すという意味での社会統制に注目するという考え方がある。これは、現代においても、秩序・安定・安全あってこその自由という観点から、自由の保障のための強制としてとらえられている。
 他方、法を人々の活動を促進するための道具立てとみる立場がある。すなわち、法は、人々の活動を予測可能で安全なものとする指針と枠組みを提供するものと位置づけられることになる。このような見方は、法は人々にある義務を課すのみならず、権能を与える面を有し、人々は、法的規制の客体・法による保護の対象というだけではなく、法を用い動かす主体でもあると位置づけられる。そして、私的自治を可能な限り認める、人々の合意を尊重するという発想が採用される。
 たしかに、法は紛争解決における規準となり、または紛争解決の手続きを提供するが、これも、合意の形成と実現を間接的に促進し外面的に保障するものであるということができる 。
 第1に、ロボット・AIの不具合から生じた損害をだれが負担するかについてのルールを法は提供する。近代法の下では、意思−行為−責任という定式による。すなわち、意思に基づく行為(作為及び不作為を含む)から生じた損害について責任を負う。これを基本として、リスクの分配を当事者間で定めることができる範囲を明らかにすること、当事者の間で定めなかった場合のリスクの分担を定めることも、危険の公平な負担を実現するという観点から重要な法の役割である。
他方で、第2に、法は、社会的に受け入れることができないほどリスクが高くなることを抑止するという役割を果たす。悪く言えば、おせっかいなのであるが、一定の安全基準を設定し、それに違反した者にサンクションを課すという形で、当事者がリスクを負担するといってもそれを許さないという機能を果たすことになる。
 このような機能を法が有することにより、第3に、法は社会がロボット・AIの進展を受け入れるために役立つ可能性がある。法がロボット・AIを認知し、かつ、一定のルール、過大なリスクを抑止するルール、またはリスクが現実化して、ある者に損害が生じた場合の取扱いを定めることによって、人々はある程度安心することができ、それを受け入れやすくなると予想される。この観点からは、意思−行為−責任によらない責任を認めたり、国などが損害をカバーするということが一方では考えられる。同時に、責任を負う者がその責任を果たすことができるようにするために、保険を付すことを要求するということもありうる。
 このような法の機能はますます重要になるものと推測される。なぜなら、ロボット・AIの進展は、ロボット・AIにお任せするかどうかを人々に迫るからである。AIが人間より高い能力を有するような状況を想定すると、AIの作動を評価できないためである。お任せしない限り、その利便を享受できないという意味で、二者択一ということになるが、その場合に、合理的なリスク配分を当事者の間の合意によって実現するにはいくつかの障害がある。たとえば、交渉力の格差は、合意をゆがめるし、未経験のリスクは過小に評価されがちである。そこで、法がルールを与えようとする(法が最適なルールを定められるかどうかも心もとないのであるが)。